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福岡地方裁判所 昭和52年(ワ)312号 判決 1978年6月30日

原告

田代守

被告

山田裕紀

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、各自金三四九万三二〇九円及びこれに対する昭和五一年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金七〇七万二三六五円及びこれに対する昭和五一年一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(被告ら)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は次の交通事故によつて傷害をうけた。

(一) 発生時 昭和五一年一月一日午後一〇時五四分頃

(二) 発生地 福岡市東区馬出三丁目九番七号先路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(北九州三三さ一三四八)

運転者 被告山田

(四) 被害者 原告

(五) 態様 加害車進路前方で、タクシーを止めるため佇立していた原告に衝突。

2  責任原因

被告らはそれぞれ次の理由により、本件事故によつて生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(一) 被告山田は事故発生につき、進路の安全を確認して前方を注視すべき義務があるのにこれを怠つた過失があつたから、民法七〇九条による責任。

(二) 被告小倉山田フルーツ株式会社(以下被告会社という。)は加害車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、本件損害につき自賠法三条の責任。

3  損害

(一) 原告は本件事故により前額部挫創、脳震とう症、腰部捻挫、左大腿下腿打撲傷の傷害をうけ、昭和五一年一月一日から同月五日まで朔病院、前同日から同月一四日まで溝口整形外科病院、前同日から同年二月二五日まで香椎外科病院に入院し、なお同月二六日より同年四月七日まで右香椎外科病院で通院加療をうけていたが、同四月七日山田病院に再入院し、同年五月三一日同病院を退院し、それ以降同年一二月二〇日まで魚住病院で通院加療をうけた。そして、その後においても、身体障害等級一四級に該当する局部の神経症状及び外貌醜状の後遺障害が残つている。

(二) 原告は、福岡水産高校機関科を昭和四六年三月に卒業し、訴外会社に入社、南氷洋捕鯨船の機関員としての業務に従事してきたものであり、本件事故当時は、たまたま収獲をあげて帰国している時期であつた。

当時、日本捕鯨業は、国際会議の決定によりその規模を縮少し、各社が統合して船団を再編成することを余儀なくされた時期であつて、日本共同捕鯨株式会社が設立され、原告ら捕鯨船乗組員は右会社への移籍の手続が進められている段階であつた。原告らの同僚らで希望するものはすべて右移籍が認められたが、原告は本件事故にもとづく傷害のため入院中で業務に耐えないことを理由として移籍を認められなかつた。

原告に対しては、訴外会社から右移籍に代る職種として同社の対馬における真珠養殖漁業の監視業務が提示されたが、原告は第一に本件事故にもとづく傷害が治癒せず、第二に原告の受けて来た教育、経験に相応しない職種であることからこの申し入れを断つた。このため、原告は昭和五一年九月一〇日、訴外会社を退社のやむなきに至つた。

結局、原告は本件事故のため、自己の学歴、経歴にふさわしい職業の継続が不可能になつたのであつて、このことにより原告の被つた精神的損害は多大なるものがある。

(三) 原告は訴外会社に勤務して昭和五〇年度中金二五四万七二〇〇円の給与を得ていたが、本件事故により昭和五一年度中休業を余儀なくされた。

被告は勤務していた訴外大洋漁業株式会社(以下訴外会社という。)から一月分給与として金一三万円を受領したのみである。

(四) 原告の被つた損害の額は以下のとおりである。

(1) 休業損害 金二四一万七二〇〇円

(2) 入院雑費 金五万七〇〇〇円

原告は入院一一四日を要したので、一日につき金五〇〇円を請求する。

(3) 逸失利益 金二一四万八一六五円

原告は前記後遺症により、次のとおり将来得べかりし利益を喪つた。その額は金二一四万八一六五円と算定される。

(事故時の年齢) 二二歳

(就労可能年数) 昭和五二年一月一日から四五年間(六七歳まで)

(労働能力喪失の継続期間) 四五年間

(収益) 前記のとおり年額二五四万七二〇〇円

(労働能力喪失率) 五パーセント

(4) 慰藉料 金三五〇万円

入院一一四日、通院期間二〇三日を要する傷害、これにより自らの専門職を失つたこと及び醜状を残したことに対する損害である。

(5) 弁護士費用 金五〇万円

原告は、昭和五二年三月一日、報酬金五〇万円の約にて弁護士に本訴提起を委任した。

(五) 原告は以上合計金八六二万二三六五円のうち金五五万円をすでに受領した。

よつて原告は被告らに対し、右残金八〇七万二三六五円のうち金七〇七万二三六五円およびこれに対する本件事故発生の日である昭和五一年一月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告山田)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2(一)の事実は否認する。

3 請求原因3の事実中(五)の事実は認め、その余はすべて争う。

(被告会社)

1 請求原因1の事実は認める。

2 請求原因2(二)の自賠法上の責任は認める。

3 請求原因3の事実中(五)の事実は認め、その余はすべて争う。

三  抗弁(被告ら)

1  過失相殺

原告は呼気一リツトル中につきアルコール分一・〇〇ミリグラム以上を有する酩酊状態で、深夜国道の幹線道路の車線に走り出て来て被告山田運転車両を停めようとした重大な過失があり、その受傷は自ら招いたものというべく、ゆえに被告らは免責さるべきであり、そうでもないとしても本件にあたつては原告の右過失を斟酌さるべきである。

2  損益相殺

原告は船員保険から治療費並に休業補償金を受領している。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実については当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない甲第三ないし第六号証、乙第一号証、同第三ないし第四号証によれば、本件事故発生の状況について次のような事実が認められる。

本件道路は車道部分の幅員一八・六メートルの舗装された国道で、見通しがよく、第一車線がバス専用レーンで更にセンターラインに向けて第二第三車線があり、事故現場付近において東側の金平団地に通ずる道路とほぼ直角に交差している。本件事故当日午後一〇時五四分頃原告は、訴外平山龍夫こと申相勉ら三名の友人と飲酒の後タクシーで帰るため、右団地から右国道の東側歩道まで出て合図をしたがタクシーがそのまま通過したため、更に次のタクシーを停めようとして右歩道から第二車線付近まで出たところ、進行して来た被告山田運転の加害車が原告に衝突した。

被告山田は、北方(千早方面)から南方(千鳥橋方面)に向け、時速四〇ないし四五キロメートルで進行中、進路左前方にいた原告の前記友人の動向に気をとられ、そのまま漫然と進行したため、自車の前方約二一・一メートル地点で初めて原告を発見し、急制動したが間に合わず、自車の左前部を原告に衝突させ、後記傷害を負わせたものである。

三  右認定事実によると、被告山田には進路前方の安全を確認して進行すべき注意義務を怠つた過失のあることが認められる。被告らは、原告にも重大な過失があり免責さるべき旨主張するが、本件事故は、右被告山田が絶えず前方及び左右を注視し、道路の安全を確認して進行しさえすれば未然に防げたものと認められるから右主張は理由がない。しかしながら原告としてもタクシーをとめるのであれば歩道上に立つてとめるべきであるのに、酩酊状態で通行車両に対する注意を怠つたまま第二車線付近に出てきたが故に衝突を招いたという点において相当の過失があるものといわねばならない。そして、以上認定の諸事実からすれば、本件事故における双方の過失割合は、被告山田の六に対し、原告の四と見るのが相当である。

四  被告らの責任

1  被告山田の責任

本件事故が被告山田の過失に基づき惹起されたものであることは前記のとおりであるから、同被告が民法七〇九条により損害賠償義務を負うべきことは明らかである。

2  被告会社の責任

成立に争いのない乙第一号証、同第四号証並びに弁論の全趣旨によれば、被告会社が加害車の所有者であること、被告山田は被告会社の代表取締役であり、本件事故当時被告会社の売上集金の業務のため加害車を運転していたことが認められ、右認定事実によれば、被告会社もまた、加害車を自己のために運行の用に供していたものとして、自賠法三条により損害賠償義務を負うべきである。

五  損害

成立に争いのない甲第一一ないし第一四号証によれば、原告は本件事故により前額部挫創、脳震盪症、腰部捻挫、左下腿打撲傷等の傷害をうけたこと、右傷害の治療のため事故発生の日である昭和五一年一月一日から同年一二月二〇日まで入院(一一一日)及び通院治療したことがそれぞれ認められる。そして成立に争いのない甲第一五、第一六号証、同第二三号証の一、二、並びに原告本人尋問の結果によれば、原告の傷害は昭和五二年一月頃症状がほぼ固定したこと、原告には局部(特に腰部)における神経症状、外貌の醜状がそれぞれ残存していること、右各後遺症状は自賠責任施行令別表一四級の一〇、一一に各該当することが認められる。

1  休業損害 金二四三万八三七三円

成立に争いのない甲第五号証、同第一八号証、証人田代常美の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第二二号証の二、証人田代常美の証言、並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和四六年三月福岡県立水産高校機関科を卒業し、同年四月訴外会社に入社し、捕鯨船の機関員として勤務していたが、本件事故により休業し、同年九月九日には退社し、同年一二月末まで一年間就労することができなかつたこと、原告は訴外会社より昭和五〇年中に給与賞与合計金二五四万七二〇〇円を受給し、他方、昭和五一年一月に給与として金一〇万八八二七円を受給していることが認められる。そして、右認定事実によれば、原告の蒙つた休業損害は金二四三万八三七三円と認められる。

2  入院雑費 金五万五五〇〇円

原告が一一一日間入院したことは前記認定のとおりであり、右期間中雑費として一日五〇〇円合計金五万五五〇〇円の損害を生じたことは経験則上これを認めることができる。

3  逸失利益 金一五八万七一八五円

前掲甲第一四号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五二年一月頃からようやく作業労働に従事することができるようになつたものの、重い物を持つたり、同じ姿勢でいるときなどは腰部に激痛を感じ、また頭痛、めまいなどもあり、今後相当長期間に亘つて軽い労働はできるが、従前のような労働に服することは望めないことが認められる。そして前記認定した受傷の程度、治療経過、年齢等を考慮すると、本件事故により原告は昭和五二年一月一日より向う二〇年間(二三歳より四三歳まで)を通じ、その主張のとおり五パーセントの労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。そして、原告はその間昭和五〇年度における年収金二五四万七二〇〇円を下らない収入を得ることができたものと推認されるので、当該金額を基準にして向う二〇年間の逸失利益をライプニツツ式計算方法により年毎に五分の中間利息を控除して計算すると、次のとおり金一五八万七一八五円となる。二五四万七二〇〇×〇・〇五×一二・四六二二=一五八万七一八五円

注 一二・四六二二は二〇年のライプニツツ係数

4  慰藉料 金二五〇万円

成立に争いのない甲第五号証、同第一一ないし一四号証、同第一六号証、証人田代常美の証言によつて真正に成立したものと認められる同第二〇号証の一、二、同第二一号証の一ないし四、同第二二号証の一、証人田代常美の証言、原告本人尋問の結果によれば、本件事故当時、日本の捕鯨事業の縮少、統合に伴い、日本共同捕鯨株式会社が設立され、訴外会社の捕鯨部門の従業員は優先的に右日本共同捕鯨株式会社に採用されることになつていたこと、原告も右移籍を希望しており、原告のそれまでの勤務成績よりすれば移籍を認められる可能性が十分あつたが、右移籍希望者の募集時に療養休職中であつたため移籍者選考基準に該当せず、移籍を認められなかつたこと、その後訴外会社より対馬の養殖真珠の番人をする陸上勤務の話があつたが、原告はもう一度船に乗りたいという気持があると共にまだ体力に自信がないこともあつてその話を断つたこと、結局昭和五一年九月九日自主退職を余儀なくされたことが認められる。

右認定事実に原告の傷害の部位・程度、入通院期間、後遺症の程度その他、本件全証拠によつて認められる諸般の事情を斟酌すれば、原告がうけるべき慰藉料の額は金二五〇万円をもつて相当と認める。

5  以上1ないし4の原告の損害額合計は金六五八万一〇五八円であるところ、これを前記の割合に応じて過失相殺すると金三九四万八六三四円になる。

6  損害の填補

原告が本件事故による損害の填補として被告及び自賠責保険より合計金五五万円の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、また、乙第六号証によれば、原告は船員保険より傷病手当金一五万五四二五円を受領していることが認められるから、右合計金七〇万五四二五円を控除すると、損害残額は金三二四万三二〇九円となる。なお、乙第六号証によれば、船員保険より治療費金二八万一八六〇円が支払われていることも認められるが、治療費は本訴請求中に含まれていないので、控除すべきものではない。

7  弁護士費用 金二五万円

本件事案の内容、認容額等諸般の事情を考慮すると、被告らをして負担せしむべき弁護士費用は金二五万円をもつて相当と認める。

六  よつて、被告らは原告に対し、各自金三四九万三二〇九円及びこれに対する本件事故発生日である昭和五一年一月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、右の限度で原告の被告らに対する本訴請求を認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 川井重男)

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